○2019年2月カーネギーホールでリサイタルデビュー。今後、ウィグモアホール(ロンドン)、コンツェルトハウス・ベルリン、ケルナーホール(トロント)でのリサイタル、ホーネンスおよび英国の名門レーベル・ハイペリオン各レーベルによるCDの録音、ロンドン・フィルとの共演や世界各地の著名音楽祭への出演が予定されている。
○作曲家としても広く活躍し、現代美術家で抽象画家のファビエンヌ・ヴェルディエ(Fabienne Verdier)の映像作品“Walking painting”やエクサン・プロヴァンス音楽祭(仏)に関連して制作されたショートフィルム“Nuit d’opera a Aix”にも参加。
○1992年ジョージア生まれ、幼少期に家族でハンガリーへ移る。ブダペスト、ウィーン、フィレンツェの音楽大学を経てニューヨーク・ジュリアード音楽院修士課程に入学。現在はニューヨーク市立大学大学院センター博士課程に在籍しながら、ニューヨーク市立大学クィーンズ校にて教鞭もとる。これまでにピアノをエマニュエル・アックス、ヨヘヴェド・カプリンスキー、ゾルタン・コチシュ、マッティ・ラエカッリオ、エリソ・ヴィルサラーゼ各氏に、作曲をジョン・コリリアーノに師事。
「21世紀の聴衆のための21世紀の芸術家」の発掘と育成を標榜するユニークな国際ピアノコンクール
1992年から3、4年毎にカナダ・カルガリーで開催されており、優勝者には100,000カナダドル(約850万円)と世界の主要ホールでのリサイタルデビューやハイペリオンレーベル(英)からのCDデビューを含む3年間のキャリアサポートが約束されている。その他の特色としては、65分のソロリサイタルとは別に弦楽器・金管楽器・声楽家とのアンサンブルリサイタルも必須とされること、ソロリサイタルのプログラムは自由度が高く現代曲も組み入れることが推奨されていること(アンコールも可!)、加えて事前に行われた予選ラウンドではソロ演奏のほか英語によるインタビュー、そして本選に選ばれた3名も15分間のインタビューが課せられ、それらすべてが審査の対象として考慮されていることなどが挙げられる。出場者には演奏技術だけではなく、国際的に活躍するプロショナルな音楽家として必要な素養が備わっているかどうかも問われるというわけだ。
2018年のコンクールでは、芸術監督としてジョン・キムラ・パーカー氏、審査員としてアンドレ・ラプラント、アレッシオ・バックス、イングリット・フリッター各氏他、国際的に活躍している現役ピアニストを中心に、欧米の音楽祭やオーケストラのマネジャーも招かれていることも特筆に値するだろう。審査終了後にセミファイナルおよびファイナル参加者全員が審査員およびメンター(2018年はギャリック・オールソン氏)から直接アドヴァイスをもらえることにも、コンクールを一過性のものとして捉えていない姿勢が伺える。過去にはパヴェル・コレスニコフ、クシシュトフ・ヤブウォンスキ、ジャン=エフラム・バヴゼ、セルゲイ・ババヤン各氏も受賞している(但し2012年以降の回では優勝者のみ選出され、その他の参加者には順位はついていない)。
ピアノとカルガリーの街を愛していたエスター・ホーネンス女史は、25年間宝石商のオフィスマネジャーとして働きながら賢い投資を行った結果、かなりの財産を手に入れ、将来カナダで何世代にもわたって楽しまれる素晴らしい音楽の遺産を作り出すことを考えるようになった。
1991年、残りの人生が長くないことを知った彼女は、故郷の街カルガリーで国際ピアノコンクールを創設するために500万カナダドル(現在のレートで約4億4,000万)を寄付した。彼女の願いは、このコンクールが若い音楽家が活躍するためのきっかけとなり、また街の人々の大きな誇りの源となることであった。迅速に審査員が集められ、芸術監督が任命された。彼らの挑戦は、パーキンソン病に侵されているホーネンス女史が生きている間に第1回のコンクールを開催することであった。
1992年11月、89歳だったホーネンス女史はジャック・シンガー・ホールに特別に設けられた部屋でファイナルコンサートを見届け、その5日後にこの世を去った。
日時:2019年6月4日
場所:宗次ホール
13:30開演(13:00開場)
一般自由席:¥2,000
チャリティシート(※):¥2,200
(※)宗次ホールチケットセンターのみで取り扱いとなります。
スクリャービン ソナタ 第9番 Op.68 ≪黒ミサ≫
バッハ シンフォニア 第9番 へ短調 BWV795
バッハ パルティータ 第6番 ホ短調 BWV830
シューマン アラベスケ ハ長調 Op.18
シューマン 暁の歌 Op.133
ナモラーゼ アラベスク(2018)
ナモラーゼ 練習曲第1,2,3番 (2015-2017)
主催:宗次ホール
協力:The Honens International Piano Competition & Festival
宗次ホールチケットセンター
TEL:052-265-1718
チケットぴあ TEL:0570(02)9999
栄プレチケ92 TEL:052(953)0777
芸文P.G. TEL:052(972)0430
日時:2019年6月9日
場所:東京文化会館 小ホール
14:00開演(13:30開場)
全席指定一般:¥3,000
全席指定学生券:¥1,000
スクリャービン ソナタ 第9番 Op.68 ≪黒ミサ≫
バッハ シンフォニア 第9番 へ短調 BWV795
バッハ パルティータ 第6番 ホ短調 BWV830
シューマン アラベスケ ハ長調 Op.18
シューマン 暁の歌 Op.133
ナモラーゼ アラベスク(2018)
ナモラーゼ 練習曲第1,2,3番 (2015-2017)
主催:アイエムシーミュージック
協力:The Honens International Piano Competition & Festival
後援:在日ジョージア大使館
アイエムシーミュージック
03-6907-2535
チケットぴあ 0570-02-9999(Pコード:135-443)
イープラス https://eplus.jp
東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650
聞き手:パメラ・クーン(オペラ歌手)
今回のリサイタルでは異なる時間が交差する際に顕れるそれぞれの音楽の関係性を明示したいと思います。プログラム冒頭のスクリャービン『黒ミサ』の次にバッハ『シンフォニアヘ短調』を並べたのも、異なる時代の作曲家による作品の特徴の違いと共通点を浮きだたせるためです。また、『シンフォニア』はよりスケールが大きな、バッハの偉大なる作品『パルティータ ホ短調』とスクリャービンを繋ぐ橋渡しとしても機能しています。
プログラムの後半では、シューマンの全盛期の作品と最晩年の作品とを組み合わせました。『アラベスケ』はシューマンの作品の中でも最も穏やかな作品で、『暁の歌』は最も野心的な作品だといえるでしょう。プログラムの最後はシューマンの同名作品と似た構成からなる自作曲『アラベスク』と『練習曲第1番、2番、3番』で締めくくります。
通時的視点からスクリャービンの数々の作品をたどるときに興味深いのは、この作曲家が生涯を通じ段階的に音楽様式の劇的な変化を遂げたことである。初期の作品はショパンに深く影響を受けた音楽語法により書かれているが、一方で後期の作品においては、伝統的な調性音楽の境界線を拡大するかのような実験的なアプローチが見られる。共感覚、神智学への興味、そしてロシア象徴主義への熱中は彼の作曲に直接影響し、敗血症によって悲劇的に短い生涯を終えるまで、彼は独創的且つ神秘的な音楽語法を発展させていった。
『黒ミサ』としても知られる『ピアノ・ソナタ 第9番』は、彼の最も有名なピアノ作品の一つである。この『黒ミサ』と言うタイトルはスクリャービンがつけたものではないが、楽曲中に悪魔を喚起するような要素がいくつも存在することを理由に彼もこれを承認した。冒頭では柔らかさと恐怖の間を行き来している。曲が展開するにつれて容赦なく加速しながらテクスチャーは厚みを増しヒステリックな混乱へと突入する。やがてグロテスクな行進曲へと辿りつき、不協和音を多用した圧倒的なクライマックスに到達する。
バッハの『インヴェンションとシンフォニア』は鍵盤上の技術を向上させるのみでなく、幾つもの異なる作曲形式を理解することを目的とした30曲からなる教則曲集である。その中でも特に大胆に半音階を用いた「シンフォニア 第9番 ヘ短調」は注目すべき作品の一つである。斬新で並外れた不協和音のパレットを用いながら幾度も転調を経て、最後の最後で主調に戻る。
全部で6作品ある舞踏組曲『パルティータ』は、バッハがライプツィヒの聖トーマス教会にカントルとして仕えた1726年から1731年の間に作曲された。この作品に加えて『イギリス組曲』『フランス組曲』と3つあるバッハの鍵盤楽器のための組曲において最後に作られた組曲であるにもかかわらず、これがバッハ自身が監修し出版された最初の作品である。第一曲が全て異なった形式で書かれた上、いたるところに多種多様な舞曲がちりばめられた『パルティータ』は構成面において他の2つ組曲より創造的であると言える。
『パルティータ』の中で最後の組曲であるこの『第6番 ホ短調』は、このジャンルにおいてバッハ最大の偉業である。第一曲目の「トッカータ」では劇的で雄弁なセクションの間に、拡張されたフーガが登場する。「アルマンド」では巧妙な半音階が用いられ幾つもの調性の合間を縫うように進む。続く「コレンテ」は繊細かつ軽快なパッセージワークが特徴。エネルギッシュな「エール」によって、この組曲の重心であり深遠で多彩な表情を持つ「サラバンド」が導かれる。快活で優雅な「ガヴォット」が力強い推進力を持ったフーガ形式の最後の曲「ジーグ」へと聴衆を誘う。
シューマンの多くの作品と同様にこの曲でも次々に様々な雰囲気やキャラクターが描かれている。主調であるハ長調の繊細で流麗なパッセージと暗く情熱的なセクションとが転調によって交互に現れてくる。この劇的に語られる結末と感動的で思索に耽るようなコーダはシューマンのピアノ音楽を象徴する時である。
シューマンが生きた時代の多くの人々の間では、彼の晩年の作品が難解で奇妙なものであると評価されていた。そして、その晩年の作風の変化が彼の精神的衰弱に起因するものと考えられていた。しかし、近年ではそういった評価に反して豊かで大胆な和声や厳選されたテーマ素材、そして後世に残る作曲語法など、当時見落とされていた作品の質について再評価がなされている。このような様式の特質のいくつかが彼の最後から2番目の作品である『暁の歌 作品133』に凝縮されている。シューマン自身は「夜明けと朝の訪れに対する感覚を描いた作品だが、絵画的というよりもむしろ内的な感情を表現している楽曲である」と述べている。
第一曲は静謐な交唱歌が、静かだが耳に残る不協和音と調和せず、シューマン晩年の作風の主題ともいえる過去と未来とを同時に見つめるような様相を示す。第二曲はこの曲中において最も謎めいており様々なテクスチャーやキャラクターの間を往き来しながら最後にようやく主調へと辿り着く。快活な第三曲は独特なギャロップのリズムで展開する。第四曲は旋律と伴奏のテクスチャーに基づいた心を打つピアノのためのリート/無言歌である。終曲は内省的でコラールのような始まりが第一曲の雰囲気を呼びさまし、ほとんど気づかれないように加えられていく穏やかで絶え間ない音の流れが、やがてテクスチャー全体に浸透していき曲が閉じられる。
この曲『アラベスク』はヴィジュアル・アーツにおいて定義される《アラベスク》の特徴である装飾的でらせん状に織り交ざった模様に基づいて作曲されている。ピアニストは常に手を交差させ密接に絡み合った音型を弾き、個々の要素は両手の強弱の変化によってのみ区別される。上昇するセクションと下降するセクションの二つが交互に現れ、鍵盤の右半分の音域で振動を生み出す。音色と響きの穏やかな変化を探求すべく、マウリッツ・エッシャー(*訳注、オランダの画家/版画家)の『メタモルフォーシス』を連想させるような方法で曲全体を通してごく微妙なテクスチャーの変化が起こる。
それぞれの『練習曲』は、テクスチャーや音型の基礎となるピアノ特有の技術的な課題に発想を得ている。第1番“Major Scales”(長音階)では様々な調の異なる音階が、初めは両手同じ方向に、しかしすぐにばらばらになりそれぞれ違う方向へと跳ね返りながら移り変わる。次第に混沌とする左右の手の動きはやがてパッセージの崩壊を導く。第2番“Mostly Triads”(主に三和音)では、様々な種類の和音からなるテクスチャーが交互にあらわれる。常に手の位置を変えるための練習曲であり、鍵盤の高音域から始まり徐々に下降し低音域で終わる。第3番“Moving Mirrors”では、短い音型が何度も転回され、ピッチ、アクセント、音域、メロディーの形やリズムがゆがむ。これらの変化の度合いが増すにつれパッセージはますます狂乱状態へと向かう。
This recital presents a number of cross-temporal musical relationships, opening with a pairing of Scriabin’s “Black Mass” Sonata and Bach’s Sinfonia in F minor that highlights features in the work of one composer typically associated with the other — in this case, the intricate polyphonic textures in Scriabin’s Sonata and the daring chromaticism of Bach’s brief Sinfonia. The Sinfonia also serves as a bridge from the Scriabin Sonata to another large-scale work, Bach’s magisterial Partita in E minor.
The second half of the program juxtaposes a work from Schumann’s prime with one of his very last pieces. While the Arabeske is among Schumann’s gentlest works, the Gesänge der Frühe (Songs of Dawn) is one of his most experimental. This is followed by my Arabesque, a piece with structural similarities to Schumann’s work of the same name, before the program concludes with three of my Etudes.
Scriabin’s oeuvre constitutes a fascinating example of a gradual yet dramatic stylistic transformation across a composer’s lifespan. While his early works grew out of a musical language influenced heavily by Chopin, his later music displays a highly experimental approach that stretches the boundaries of traditional tonality. By the end of his life – tragically cut short by septicemia – he had developed a unique and mystical musical language where his synesthesia, interest in theosophy and involvement in the Russian symbolist movement became primary influences on his compositions.
His Piano Sonata No. 9, also known as the “Black Mass” Sonata, is among the most celebrated of his piano works. While the nickname was not coined by Scriabin, he approved of it given the many elements of the work that seem to evoke the Satanic. The piece at first flits between moments of tenderness and terror, and as the work progresses an inexorable acceleration and thickening of the texture hurls the music into a hysterical whirlwind, arriving at a grotesque march before a dissonant and crashing final climax.
Bach’s Inventions and Sinfonias are a series of 30 didactic pieces intended to develop not only a player’s technical capacity at the keyboard but also their understanding of a number of different compositional forms. Among the most remarkable of these is the Sinfonia No. 9 in F minor, one of Bach’s most audaciously chromatic works. With its daring and unusually dissonant harmonic palette, the Sinfonia constantly undergoes a number of modulations and only returns to the home key at the very end of the brief work.
Bach’s Partitas, a set of six dance suites, were written between 1726 and 1731 while he served as Cantor of the St. Thomas Church in Leipzig. Despite being the last set of suites that Bach composed, they were in fact the first works to be published under the composer’s supervision. Of Bach’s three sets of keyboard suites (the others being the English and French Suites) the Partitas are the most creative in terms of structure, with several different styles of opening movements and a variety of interspersed dances featured across the set of six suites.
The final suite of the set – the Partita No. 6 in E minor – is among Bach’s greatest achievements in the genre. In the opening Toccata an extended Fugue is framed by dramatic declamatory sections. The Allemande weaves its way through a number of key areas with a chromaticism of beguiling subtlety, while the following Corrente revels in delicate, nimble passagework. An energetic Air precedes the suite’s center of gravity: the profound and highly expressive Sarabande. A sprightly, graceful Tempo di Gavotte brings the listener to the final movement: a powerfully driven Gigue in the form of a Fugue.
As with many works by Schumann, the Arabeske presents a variety of moods and characters within a short timespan. Charmingly delicate and fluid passages in the home key of C major alternate with darker, passionate sections in foreign keys. The conclusion of this dramatic narrative, a touching and pensive coda, is an iconic moment in Schumann’s piano music.
Schumann’s contemporaries largely considered his last works perplexing and bizarre, attributing the change in his compositional style to the decline in his mental health. However, recent reappraisals of his late oeuvre – unclouded by the assumption that his manic depression would affect his compositional skill detrimentally – discuss previously overlooked qualities of these works that include a rich and audacious harmonic palette and a greater economy in thematic material, as well as the anticipation of compositional procedures of later composers. Some of these stylistic hallmarks are encapsulated in his penultimate work, the Gesänge der Frühe (Songs of Dawn) Op. 133, works that Schumann called “musical pieces that describe feelings at the approach and growth of morning, but more as expressions of feeling than painting.”
The sparse antiphony of the opening movement is at odds with its quietly jarring dissonances, a simultaneous glance to the past and the future that is at the heart of Schumann’s late style. The second movement is arguably the most enigmatic of the set, constantly flitting between different textures and characters and avoiding settling on the tonic key until the very end. The lively third movement is driven by a distinctive galloping rhythm, while the fourth is a poignant Lied for piano that maintains a song-like texture throughout. The reserved, chorale-like opening of the final movement refers back to the atmosphere of the first, before a gentle stream of notes – entering at first almost imperceptibly – begins to fully permeate the texture, carrying the work to its conclusion.
The Arabesque is based on principles that define arabesques in visual art: those of ornate, spiraling and interlacing patterns. The pianist’s hands are superimposed throughout the work, playing intertwined figurations where the individual strands can only be distinguished by dynamic shifts between the hands. Two types of sections alternate with each other – one ascending, the other descending – creating a slow oscillation in the upper half of the keyboard. A study in gentle changes of color and sonority, the shifts between various textures occur extremely gradually throughout the work, in a manner reminiscent of M. C. Escher’s Metamorphosis prints.
Each piano etude is inspired by a specific technical, pianistic challenge that serves as a basis for the textures and figurations. In “Major Scales”, the hands switch between different types of scales in various keys, at first in a coordinated manner but soon falling out of sync and bouncing off each other in different directions. An increasingly chaotic interaction between the two hands leads to the eventual disintegration of the passagework. “Mostly Triads” alternates between various types of chordal textures. A study in frequent changes of hand position, the etude fades in at the top of the keyboard and makes its way downwards, departing at the bottom of the piano’s register. In “Moving Mirrors”, short figurations undergo several forms of inversions and distortions in pitch, accentuation, register, melodic shape and rhythm, and as the rate of these transformations increases the passagework gets increasingly frenetic.